事例

位置情報ビッグデータを活用したデータドリブン戦略の最前線 データ分析の先を見据えたKDDIの新たな価値提供とは?
※本記事の内容、所属部署名などは2025年1月の取材時点のものです。
2022-2025年度の中期経営計画で「サテライトグロース戦略」を掲げ、5G通信、データドリブン、生成AIを中心に顧客との接点である通信基盤を活かした新たな付加価値の創出に取り組むKDDI。その一環として、経営戦略本部 データマネジメント部が注力しているのが、auのスマートフォンから収集される位置情報ビッグデータを活用した新たなソリューションの開発です。
これまで提供してきた位置情報サービスであるKDDI Location Analyzer(KLA)※1、KDDI Location Data(KLD)※2に続いて、2024年8月にリテール業界が抱える課題解決を支援する行動ビッグデータ活用ソリューション「KDDI Retail Data Consulting(KRDC)」をリリース。これらのソリューションを通じて、KDDIはどのような新たな価値を顧客に提供しようとしているのか。経営戦略本部 データマネジメント部の副部長を務める麻生大亮氏ほか事業のキーパーソンと、KLA、KLDの開発にも携わってきたARISE analyticsのメンバーに話を聞きました。
※1 KDDI Location Analyzer(KLA):KDDIが保有するGPS位置情報データを使った人流分析サービス。Webブラウザ上で来訪者の動きや商圏などのエリア分析データを閲覧できる。
※2 KDDI Location Data(KLD):auのスマートフォンから得られるGPSの位置情報/属性情報をもとに、公的人口統計を参照して拡大推計処理された人口データをご提供するサービス。
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麻生 大亮 氏
KDDI株式会社
経営戦略本部
データマネジメント部
副部長 -
石橋 弘志 氏
KDDI株式会社
経営戦略本部
データマネジメント部
データソリューショングループ
事業推進チームリーダー -
佐々木 黄菜 氏
KDDI株式会社
経営戦略本部
データマネジメント部
コアスタッフ
(ARISE analyticsからの参加者)
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岡部 達也
株式会社ARISE analytics
Customer Analytics DivisionAnalytics Growth Unit, Vice Unit Lead
アクセンチュア株式会社
ビジネス コンサルティング本部 データ&AIグループ マネジャー -
中尾 友洋
株式会社ARISE analytics
Customer Analytics Division, Location分析支援Team, Team Lead
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今井 省吾
株式会社ARISE analytics
Customer Analytics Division, Analytics Growth Unit, Location開発 Team, Team Lead
コロナ禍を契機に高まった位置情報データに対する社会的ニーズ
――最初にKDDIの経営戦略本部 データマネジメント部のミッションについてお聞かせください。
麻生氏 経営戦略本部はその名の通り、事業戦略の立案を通じてKDDIの経営の方向性を示す役割を担っています。その中でデータマネジメント部のミッションは、「データの力で体験をつなぐ」というコンセプトのもと、KDDIが通信キャリアとして保有するデータを使ってau経済圏を拡大する、あるいはこれらのデータを活用して自治体や法人のお客さまに向けて新たな価値を提供していくことにあります。
KDDIは通信キャリアとして、通信履歴などお客さまに関する膨大なデータを保有しています。また、ECやエンタメ、ニュースなど多数のサービスも展開しており、ここでも関連するデータを管理しています。
中期経営計画における「サテライトグロース戦略」でも重点課題として「データドリブン」が掲げられているように、これらのビッグデータを全社の資産として厳格に管理し、その価値を最大限に引き出して新たな事業を創出していくことは、KDDIグループの持続的な成長を実現する上での重要なテーマです。その中で現在大きな力を入れているのが、auのスマートフォンや携帯基地局から収集される位置情報ビッグデータを用いたソリューションの開発です。

KDDI株式会社 麻生 大亮 氏
石橋氏 auのスマートフォンをご利用いただいているお客さまの位置情報※3を時系列で分析することで、エリア内の人流や道路の交通量などを高精度に把握することができます。2013年に提供を開始した位置情報分析レポートサービス「Location Trends」は、それまで全国の自治体さまからのニーズが高かった観光動態調査などの支援を目的としたものです。
その後、このノウハウを民間向けに転用した人流データの分析サービス「KDDI Location Analyzer(KLA)」を2019年にリリースしました。
また、当社では位置情報の統計データのみをご提供する「KDDI Location Data(KLD)」というサービスも提供しています。このKLAとKLDは現在、自治体さまのみならず、新たな店舗を出店する際の売上予測や販促のための商圏分析といった用途で、小売業や飲食業、不動産業など幅広い業種のお客さまにご利用いただいています。
※3 位置情報はauスマートフォンのユーザーから同意を得た上で、個人が特定できない形式に加工して利用。
KDDI株式会社 石橋 弘志 氏
データ分析以降のコンサルティング領域にまで価値提供を拡大
――ポストコロナの現在、KLAとKLDで提供するサービスの利用状況はいかがですか?
麻生氏 KLAとKLDのサービス利用が堅調に拡大する一方、位置情報サービスの事業には課題もありました。数クリックで当該エリアの人流の実態値を示してくれるKLAのダッシュボードは、街頭でのアンケート調査といった属人的なマーケティング施策の課題を解消してくれる点で評価をいただいてきましたが、人流の分析だけではお客さまに提供できる価値が限定的でした。
佐々木氏 人流の分析データをお渡しすれば、お客さま側の課題がすべて解決するわけではありません。その後も新規出店の候補となる立地や物件の比較など、各種施策の検討が続きます。実際、お客さまは人流分析を行った後のプロセスに多くの時間をかけられていて、ここでの意思決定のスピードや精度をいかにして高めていくかは、私たちの価値提供の範囲を広げていく上での大きな課題でした。
KDDI株式会社 佐々木 黄菜 氏
麻生氏 データ分析以降の各種施策の成果を高めるためには、人流データをさらに深く読み解いて、コンサルティングの視点でお客さまの施策を支援していく必要があります。
こうしたことから、KDDIが保有する位置情報データを活用した新たなソリューションの開発に着手しましたが、これを社内のリソースだけで実現するには、コンサルティングのノウハウやケイパビリティの点で限界があります。そこで支援を要請したのが、KLA、KLDの開発にも携わり、データ分析とコンサルティングの双方の知見を備えたARISE analyticsでした。
岡部 KLAはお客さまに対する提案の入口としては素晴らしいソリューションだと思います。しかし、どこに店舗を出店したら売り上げが伸びるのか、コストを最適化できるのかなど、データを分析した後の施策にまで踏み込んで、実際の業務で使えるソリューションを提供していかなければ、本当の意味でお客さまのニーズにお応えすることはできません。KDDIさまのお考えは、まさに私たちの課題認識とも一致するものでした。
株式会社ARISE analytics 岡部 達也
興味・関心データを活用して商圏分析を支援するコンサルティングサービス
麻生氏 2024年8月にリリースした店舗開発ソリューション「KDDI Retail Data Consulting(KRDC)」は、こうした課題認識から生まれた新たなソリューションです。リテール業界が抱える課題解決に向けて、KDDIが保有する位置情報ビッグデータとお客さまが保有する独自のデータを組み合わせてダッシュボード化するKRDCによって、新店舗の出店候補地の分析、商材への関心の高さや競合商圏との重複度合いの可視化、また類似店舗のデータをもとにした新店舗の売り上げ予測などが可能になります。
今井 KRDCでは、サービスアプリの利用状況から推定される興味・関心データと位置情報を組み合わせて商圏分析を行える点が大きな強みです。興味・関心の項目は「旅行」「ファッション」「不動産」など複数の項目が用意されており、ダッシュボードは事前のヒアリングに基づいてお客さまごとにオーダーメイドで開発しますので、目的に応じて柔軟な分析を行うことができます。
(イメージ)KRDCでは、興味・関心データと位置情報を組み合わせて商圏を分析して可視化
中尾 ダッシュボードの開発に着手した当初は戸惑いの連続でした。通常のデータビジネスでは、ある程度データの型を作っておいて、こういうふうに使ってくださいという提供の仕方が多いと思いますが、そうなると価値提供の範囲が狭くなってしまいます。KRDCの提供では、お客さまが達成したい目標を最優先に必要な機能やサービス要件のコンサルティングを行って、そこからオーダーメイドのダッシュボードを開発するという一連のプロセスを支援させていただいています。
株式会社ARISE analytics 今井 省吾
株式会社ARISE analytics 中尾 友洋
岡部 実際の商談でお客さまのオフィスを訪問する際は、KDDIさまから事前にお話を聞いて、ダッシュボードのプロトタイプを作ってお見せすることが多いです。ARISE analyticsでは、こうした提案のスピード感も重視しています。
麻生 提案に際して何より大切なのは、お客さまの課題に耳を傾けて寄り添う姿勢です。ここではスピードも重要ですので、ARISE analyticsの支援は頼もしいかぎりです。ダッシュボードのプロトタイプがあって視覚的に確認できれば、説得力がぜんぜん違います。こうした点は、データ分析、開発、コンサルティングの知見をあわせ持ったARISE analyticsならではのケイパビリティです。
マーケティング領域での活用など、KRDCに寄せられた想定外の反響
――KRDCのリリースから約半年が経過しました。これまでの市場の反応はいかがですか。
佐々木氏 リリースから約1カ月間は対応が追い付かないほどのお問い合わせが寄せられるなど、想像していた以上の手応えを感じています。これもARISE analyticsが用意してくれたダッシュボードのサンプルで具体的な操作がイメージできたこと、KRDCの具体的なメリットを訴求できたことが大きかったと思います。
麻生氏 すでに獲得案件も積み上がりつつあり、営業面でもARISE analyticsには助けられています。ソリューションの企画やコンサルティングといっても、やはりお客さまのニーズを一緒に巻き取って、実際にソリューションを提供するところまで伴走してくれて、はじめてパートナーとしての信頼関係が生まれます。プロトタイプのスピーディな開発もそうですが、ARISE analyticsはKRDCの価値提供に上流から貢献してくれています。
佐々木 リリース後の反響で想定とは違ったのが、小売業界のお客さまだけではなく、マーケティングの領域で活用されたいというお問い合わせが多かった点です。潜在顧客の属性、ペルソナをより深めていきたいといったニーズがかなり寄せられていますので、こうした新たな案件でもARISE analyticsにはお客さまとのコミュニケーションの初期段階から入っていただいています。
――具体的な成果が生まれつつある事例があればお聞かせください。
中尾 1つは全国で英会話教室を展開されている株式会社イーオンさまの事例です。教室の候補地評価においてKRDCを採用され、成果が生まれています。
今井 イーオンさまの事例では、アジャイルな開発手法でダッシュボードの改善を繰り返した点が評価いただけたと思います。どこに新たな教室を出すかについても、それまで現地の担当者の方が経験で判断していのが、共通のダッシュボードを見ながら客観的なデータに基づく意思決定ができるようになりました。
中尾 もう1つは、大阪駅直結の商業施設「ルクア大阪」を運営するJR西日本SC開発株式会社さまの事例です。この事例では、人流データを興味・関心データと組み合わせることで、該当エリアを往来する人々は何が好きなのか、どういったことに関心があるのかを可視化し、それまでアンケートなどで実施していたマーケティング調査の負荷を解消することができました。これにより、すべてをデータで判断できるようになり、意思決定のスピード化や新たな施策の立案に貢献できていると思います。
リテールにとどまらない幅広い業種に向けたさらなる価値提供
――KRDCのスタートとしては、ひとまず成功だと思います。この新たなソリューションの今後の展望についてお聞かせください。
麻生氏 ARISE analyticsの支援もあり、KRDC の新規案件は着実に増えています。今後の課題としては、そもそもKRDC はデータ分析以降の施策の支援を目的としていますので、生成AIを使えばデータ分析の部分はさらに効率化できるのではないかと考えています。
生成AIが商圏分析の提案を即座に返してくれれば、その後の施策にリソースをシフトすることができます。分析自体が利益を生むのではなく、その結果をどのように活かすかが重要なので、究極的にはそうなることが理想なのだと思います。
今井 2025年2月26日に、生成AIが新店舗の出店候補地や広告掲出・プロモーション候補地を提案する機能追加を行い、ARISE analyticsが実装を支援しました。この機能では、「カフェの出店をするならどこがふさわしいでしょうか」といった簡単なプロンプトを入力するだけで、生成AIがリテール業界のお客さまに適した出店候補地を町丁目単位で提案します。このように、KLAをさらに使いやすくすることで、データ分析以降の施策の支援に力を注いでいきたいと考えています。
複数のデータを統合分析するリテール向け店舗開発ソリューションにAIアシスタント機能を追加 ~スーパーやカフェなど、業態に最適な出店候補地をチャット形式で提案可能~|2025年|KDDI株式会社
石橋氏 生成AIによる機能拡充に加えて、KLAやKRDCをどういった業種のお客さまにお使いいただくかという点も重要です。KRDCのソリューション名には「リテール(小売)」という言葉が使われていますが、リリース後の反響からもわかるように、KRDCはすべての業種のお客さまに価値を提供することができます。小売はもちろん、飲食、不動産、また自治体さまが取り組む都市計画などの領域でもお使いいただけます。
ただし、必要となる機能やプロセスは業種によって異なりますので、これらを組み込んだ専用パッケージの開発も視野に入れています。また、日々の業務で使っていただくためには、サービスの提供形態もサブスクリプションサービスのような形も1つの選択肢かもしれません。
いずれにしても、お客さまに寄り添ったコンサルティングを通じて、各業種・業務のノウハウを蓄積することで新たな可能性が見えてくると思います。
麻生氏 都市計画とも関連して、2024年2月に資本業務提携を結んだコンビニエンスストア大手のローソンさまとの協業による新たな街づくりも大きなテーマです。コンビニエンスストアは私たちの生活に欠かせない街の一部ですので、位置情報×リテールをテーマに、今後さまざまなDXの取り組みを進めていきたいと考えています。
岡部 街づくりという観点では、人流データは本当に生もので、半年とか1年の間で新しいビルができると人の流れも変わります。この中で街づくり、DXの新たなニーズも生まれてきますので、ARISE analyticsは今後も持ち前の知見でKDDIさまに伴走しながら、さらなる貢献を果たしていきたいです。
――最後に、KLAやKRDCを中心とした位置情報サービスの事業は、現在10億円規模だとうかがっています。今後、さらに事業規模を拡大していく上でのお考えをお聞かせください。
麻生氏 繰り返しになりますが、データはパーツとかガソリンといった言われ方をされるように、データや分析すること自体が利益を生むわけではありません。今後、事業を拡大していく上では、KDDIが保有するデータの価値をさらに高めて、ソーシャルインパクトにつながるソリューションを提供していかなければなりません。
そこでは当然、私たちだけでは得られないテクノロジーの知見も必要です。ARISE analyticsには私たちの事業に新しい風を吹き込んでいただきながら、引き続き伴走型の支援をお願いしたいと考えています。

KDDI株式会社
- 従業員数
- 61,288名(連結ベース、2024年3月31日現在)
- 住所
- 東京都千代田区飯田橋3丁目10番10号
ガーデンエアタワー - URL
- https://www.kddi.com/