メディアはChatGPTをどのように受け止めているか？

昨年11月にリリースされてから，ChatGPTが話題です．
Web検索の概念を根底から覆すのでは，というような意見もあり，GoogleやMicrosoftなど大手IT企業がこぞって類似したサービスを展開し始めました．
ChatGPTの性能はもちろん気になるところですが，今回の騒ぎ (？) のすごいところは，情報拡散のスピードです．
ChatGPT自体が史上最速で月間アクティブユーザ100万人を突破したそうです．
このスピード自体は，ChatGPTの話題性もさることながら，現代の情報拡散の速度が上がっていることが原因のような気もします．

100万ユーザ獲得にかかった時間 (From: Statista)

ChatGPTに関する動きは，IT業界ではたまにある大きなブームだと思います．技術的なブレークスルーが発生したときに世間がどのような反応を示すのかを観察する絶好の機会でもあります．
世間と言いつつ，観察できるのはWeb記事を中心としたメディアの反応ですが，今回のブログではChatGPTがリリースされてからおよそ3ヶ月の間に，メディアがどのような反応を示したのかということを通して，情報拡散の様子を観察してみようと思います．

Dataset

今回は，たまたま個人的にChatGPTに関するWebニュースを収集していたので，それを元にしてYahoo!ニュースの記事で補いつつ，全部で568本のWeb記事を対象に分析を実施しました．
(目についた記事は全て拾うようにしていますが，網羅性はありません…)

BERTopicによる記事分類

まずは記事の傾向を把握するために，BERTopicを使って記事全体を分類してみました．

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5つのクラスターに分かれました．
それぞれ，

• ChatGPT全般に対する評価や意見などの記事
• ChatGPTとGoogleの関係やBardに関する記事
• ChatGPTとMicrosoftの関係やBingに関する記事
• スタートアップ企業など市場関連に着目した記事

というクラスターのようです.

チャットボットに対する中国の反応に関する記事というクラスターのようです．各クラスターについて，目立ったワードを見てみます．

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トピック0〜3にはいずれも上位に AI というキーワードが入っています． ChatGPTが人工知能と関連づけられていることがわかります．
Microsoft，Googleのクラスターでは検索・チャットというキーワードも入っています．ChatGPTの使い方としてチャット風の検索という使い方が多いのでしょうか．
確かに，これまでのGoogle検索などでは主に複数の単語を入力する検索方法が主流でしたが，ChatGPTのようなチャットボットが検索機能と融合すると，検索方法が根底から覆りそうです．

また当然かもしれませんが，ChatGPTを開発したOpenAIの市場価値に関する記事も目立ちました．

ChatGPTクラスターの細分類

ChatGPTそのものに関する記事はクラスター0にまとまっていますが，もう少し詳細を知りたいところです． そこで，Topic 0に属する記事をさらに分類してみます．

Topic 0の記事に共通する単語 (AIやChatGPT, OpenAIなど) を除外し，さらにBERTopicで記事を細かく分類してみました．

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今度は4つのクラスターに分かれました．
それぞれ，

• 文章生成とAIの利用方法や研究に関する話題
• 生成系のモデル・技術と市場に関する話題
• ChatGPTとサイバーセキュリティに関する話題
• ChatGPTのサブスクに関する話題

というわかりやすいクラスターになっています．

各クラスターにおける記事をいくつかサンプリングして見てみます．

Topic-0 文章生成とAIの利用方法や研究に関する話題

• 人間の質問に答えるAI「ChatGPT」がすごいと話題に自然な文章に「やばい」と驚きの声 @2022.12.2
• ChatGPTが作り出す「もっともらしい」文章はウェブを破壊するか @2022.12.6
• ChatGPT作のニセ論文要旨は1/3の割合で査読者に本物だと思わせる @2023.1.13
• ChatGPTがMBA試験に合格！ でも小6の算数は苦手みたい @2023.1.26
• ChatGPTを活用した就職支援サービスを開始 @2023.2.14
• AI新時代の日本の戦略 @2023.2.17
• MIT Tech Review: 解説：空前のブーム「ChatGPT」はどこから生まれたのか？ @2023.2.24

ChatGPTを試してみたという記事やChatGPTによる文章生成の精度に関する記事が多かったと思います．
また，ChatGPTがなぜ，どのようにして生まれてきたのか，その影響はどこまで広がるのか，といった学術分野からの分析もありました．
特に，”AI新時代の日本の戦略 @2023.2.17” は東大の松尾研が出している分析結果で，わかりやすいと思います．オススメです．

Topic-1 生成系のモデル・技術と市場に関する話題

• 2022年はAI技術の「社会実装」が躍進した1年…ChatGPT、神絵AI、自動運転からロボットまでを振り返る @2022.12.26
• ChatGPTの衝撃マイクロソフトが1兆円を投資 驚異の進化と迫るリスク @2023.2.3
• ChatGPTで一部の仕事が失われても、自分の仕事は大丈夫-ＭＬＩＶ調査 @2023.2.6
• 加熱する ジェネレーティブAI 開発がもたらす有害な影響のリスク：「テクノロジーをどのように運用すべきか、を考慮しなければいけない」 @2023.2.21最近は画像・言語などさまざまな生成系のAIが生まれてきているので，それに対する市場の反応や，いわゆる「AIに仕事を奪われる系」の記事が目立ちました．
  ChatGPTは簡単なコードであれば一瞬で生成してくれるそうなので，ワレワレ分析者も他人事ではないかもしれません…

  Topic-2 ChatGPTとサイバーセキュリティに関する話題

• サイバー犯罪者が早速、ChatGPTを悪用3つの事例を紹介 @2023.1.19
• ChatGPT、マルウェアも書ける、書けちゃう @2023.1.25
• IT専門家の51％が「ChatGPT」を使うサイバー攻撃に警戒 @2023.2.7
• ChatGPTがサイバーセキュリティにもたらす影響 @2023.2.13
• アングラ犯罪者らが、ChatGPTの悪用防止機能を回避してフィッシングメールを作成 @2023.2.17

ChatGPTとサイバーセキュリティに関する記事が出てくることは予想通りで，実際に綺麗なクラスターを作るほどに記事が出てきています． マルウェアを自動生成できたという話から，判別しにくいフィッシングメールを作成する事例まで，すでにさまざまな悪用方法が出てきているようです． ARISEでも最近になって通信・セキュリティに関する案件が増えてきており，生成系AIの発展に伴ってセキュリティ領域の様子が大きく変わる可能性があると思わされるものでした．
(余談ですが「IT専門家の51%が警戒」とありましたが，残りの49%はどのような意見を持っているのか気になりました．)

Topic-3 ChatGPTのサブスクに関する話題

• ChatGPT有料版は月額42ドル？ 「これは破格」の声も @2023.1.25
• ChatGPTの有料サブスク版「Plus」、月額20ドルで提供開始 @2023.2.2
• ChatGPT、月間アクティブユーザー数が1億人突破 @2023.2.3これについては，まぁ，気になりますよねw
  

  ChatGPTに関するイベントとメディアの反応タイミング

  最後に，ChatGPTに関する主なイベントとそれに対するメディアの反応を時系列で眺めてみます．

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ほぼ指数関数的に記事数が増加してきています． これは2023.2.26断面ですが，今後もまだまだ増えそうです．

クラスターごとに反応するタイミングがあり，たとえば市場は12月半ばごろにChatGPTのヤバさに気がつき始めたようです． リリースから約半月ですね．

また，サイバーセキュリティに関する記事は1月半ばごろから急増しています． MicrosoftのBingに関する記事もこの頃から増え始めています．
(ChatGPTに対する反応に比べて，BingやBardに対する記事は辛口なものが多い気がしますが，なぜでしょうか…)

最後に2月ごろになってサブスク情報や中国関連の記事が出始めました．

ChatGPTに関する情報伝達の速度としては，リリース直後からアーリーアダプターが反応し，その後約半月で市場関係者が興味を持ち始めたようです． セキュリティ関係者は少し遅れてリリースから1ヶ月後くらいから積極的な反応を示し始めています．

あとは，類似サービスのリリースなどイベントに合わせて記事数が増えているようです．

ChatGPTのリリースからたった3ヶ月で，すでにいくつかの企業がチャットボットと連携した新サービスを打ち出しています． ARISEはといえば，これからChatGPTの活用方針に関して議論を始めるところですが，まだ遅くはない…ハズ…

SNSが普及して以降，情報伝達速度が飛躍的に高まっていると言われていますが，実際に計測してみると確かにビジネス面でもこれからは相当な反射神経が求められそうです．常にアンテナを張り巡らせておかなければ…と思わされる3ヶ月間でした．